「違いを価値に変えるダイバーシティ」 / 久保博揮

「違いを価値に変えるダイバーシティ」 / 久保博揮

2020年8月26日

第1回 ダイバーシティとは?

「この絵が横向きに書かれていたら、市の展覧会に出せたのに」。

小学校の学内展覧会の準備中に、
私の絵の前で数名の先生方が腕組みをして見つめていた光景が、
今も目に焼き付いています。

その年のテーマは「未来の海中都市」。

多くの児童が、未来の海中都市を写生したように風景を描いた中、
私は、潜水艦の窓から海中都市を見つめる自分の後頭部まで描くという、
実に子供らしくない描き方をしていました(笑い)。

ではなぜ市の展覧会には出せなかったのか。
それは応募規定に、「画用紙を横向きに描いていること」という要件があったからです。

私は絵の構成上、画用紙を盾に使い、潜水艦の窓や測量系、そして自分の肩から上の後頭部まで描いたのです。
ですから、先生方から絶賛されても、市の展覧会には推薦されず、学内の展示止まりとなりました。
逆に言えば、画用紙が「たて」であることだけで、社会からは認められない存在となったわけです。

ダイバーシティ推進への取り組み

私がダイバーシティ推進を自分自身のミッションとして取り組み始めて早10年。

人々の個性(多様性)と、社会の中にある枠組みとが抱えるジレンマは、
小学生時代の絵画にとても似ている気がします。
「よこ」が多数派であるならば、「たて」は圧倒的な少数派。というより規定外。
いくら魅力的で、個性的で、身近な人々から絶賛されても、
社会の中の「枠組み」からははみ出た存在だった、ということになります。

小学生の絵なら、悔しい思い出で終わりますが、現代では、こういった人々の多様性に、
社会環境の変化、対応が追い付いておらず、
社会の枠組みから零れ落ちてしまう人々が結構存在するということです。
そういった人々の多様性が「ダイバーシティ」という言葉で表すことができると思います。

近年、認知度があがってきた発達障害のみならず、
その他の障害、性別不和、生活困窮、一人親世帯、外国人世帯など、
人との「違い」を多様性として持っていると、
これまでの社会の枠組みでは、相いれないこともあり、「障壁」となるわけです。

「障害」という言葉や定義には、個々にイメージの違いがあると思います。
しかし、基本的に個人の性質に原因があるわけではなく、その個性ゆえに、
「社会的障壁」が生じることが「障害」であると言えます。

とするならば、障碍者のみならず、
多数派(マジョリティー)の社会に埋もれてしまっている
少数派(マイノリティー)にとっての社会的障壁が存在していることに、
私たちはまず目を向けなければなりません。

ダイバーシティは他人事ではない

また、この日本においても、この数十年の大きな社会構造の変化によって、
もはや「多数派」や「ふつう」といったものよりも、
多様な働き方や、多様な家庭の在り方、多様な個性を持つ人々が
存在することを実感されている方も多いのではないでしょうか。

つまり、「ダイバーシティ」は、どんな人にとっても、もう他人事ではありません。
行政サービスにおいても、ビジネスにおいても、教育においても、画一的ではなく、
個別的に対応していく多様性が求められている時代になったということです。

それゆえに、今「ダイバーシティ」を踏まえて、私たちに何ができるのか。
真剣に考えていく時期になっています。

自己紹介

久保博揮

一般社団法人日本ダイバーシティ推進協会 代表理事
1975年三重県生まれ。京都外国語大学卒。
自身の家庭環境、視覚障がい、難病による、他者との「違い」を社会で「価値」に転換すべく、
ダイバーシティコンサルタントとして活動中。
前職は某大手通信会社にてユニバーサルデザインに従事。
ダイバーシティ推進を目的に2012年に現法人を設立し代表に就任。
行政や企業にて、研修や助言も行っている。
同法人では、制度の狭間で就労困難を抱える若者を
支援する名古屋市南部ステップアップルームの運営委託を受けている。
第35回わたぼうし音楽祭大賞受賞。音楽によるダイバーシティ推進にも取り組んでいる。

ウェブサイト http://j-dna.org/
わたぼうし音楽祭://youtu.be/64mfXQvrU14